「道具の作製」
飼育(注1)されているチンパンジーが道具をつくることは前からわかっていた。有名なものに1914年行われたケーラー(W.Koheler)の実験(じっけん)がある。
(※1)チンパンジーの手のとどかない柵の向こうにバナナをおき、手をとどくところに棒をおいておくと、棒を使ってバナナをとりよせることはたいがいのものがすぐできる。棒がないときは木の枝を折り取ってそれでひきよせつことのできるものもいる。このチンパンジーのなまえはズルタンといった。
今度はズルタンに丈夫で中空(注2)な葦(注3)の茎(注4)の棒を太いものと細いものと2本がつながった。①とたんにとんでいってバナナをひきよせはじめた。2本の棒をつなぐことにより、有効な道具がつくれたわけである。(中略)
(※2)もう一つの実験がある。壁はつるつるでのぼることができないへやの隅に、一辺50センチぐらいの大きさの木箱をおいておく。バナナを手のとどかない高いところに吊しておく。ズルタンはとび上がってとどかないとわかると、箱をひきずってきてこの上からとび上がり、バナナをとることができた。次にさらに高いところにバナナを吊し、箱の数をまして積み上げないととどかないようにする。これは初めはなかなか難しかったが、だんだんできるようになった。ほかのチンパンジーも見習って(みならって)できるようになり、グランデという名のチンパンジーは四つまで積み上げるのに成功した。この積み上げられた箱は、ある目的のためにつくられた一種の建造物(けんぞうぶつ)であると考えられる。
箱の実験においてはこのほかに面白いことが二つ観察(かんさつ)されている。一つは箱一つの実験でなかなか解決法(かいけつほう)がみつからなかったときに、実験者がまったく考えていなかったうまい解決法である。チンパンジーに②臨機応変(注5)の才能のあることを示している。
いま一つは③協同作業にみえるものが現れたことである。箱を積み上げることを知っているもの同士があつまると、われがち(注6)に箱を積もうとする。これは協同作業ではなく箱が崩れ落ちる結果となる。ただ、一度だけ離れたところにおいてあった大きな檻(注7)をグランデが使おうとして、うごかすことができなかったことがある。するとランというチンパンジーとズルタンとがかけよってきて、一頭ではうごかなかった檻を三頭でうまくうごかして目的のバナナの近くへ運んでいった。ただし、まだ真下へこないうちにズルタンが檻にとびのり、そこから跳躍(ちょうやく)してバナナをとってしまい、ほかの二頭はなにもとれない結果に終わった。これは真の協同作業というよりは、グランデがなにをしようとしているかをほかの二頭がただちに理解し、それぞれが自分自身のためにこれを運んだのであろう。
(木村賛「サルとヒトと」サイエンス社による)
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(注1)飼育(しいく)する:飼う
(注2)中空な(ちゅうくな):中が空の
(注3)葦(よし):植物の名前
(注4)茎(くき): |
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(注5)臨機応変(りんき おうへん):そのときの状況に合わせてやり方を変えること
(注6)我勝ち(われがち)に:他のものよりも先に
(注7)檻(おり):動物が逃げないように入れておくもの |
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