「ドン」という鈍い音がしました。手近な窓から外を確かめてみましたが、別に異常はな いようでした。台所へ飛んでいきました。ちょっとこげ臭いような匂いがしました。
①あわてて火の元を確かめましたが、火の気(注1)もありませんでした。窓が全部開いていて風が流れるので、匂いの元が分かりません。危険はなさそうなので、ひとまず安心して、脱水が終わっているはずの洗濯物を干そうと思いました。ところが脱水(注2)が途中で止まってしまっているのです。洗濯機の回りにこげ臭い匂いがしました。②原因は洗濯機でした。
修理を頼んで分かったのですが、その洗濯機は問題になっている機種でした。ある年に作られた製品の一部の部品に欠陥があるとのことでした。メーカー側の対応は場合が③場合 だけに実に丁寧でした。
さっそく次の日、修理の人が来てくれました。二十代と五十代らしき二人の男の人で、言葉に素朴なお国なまり(注3)がありました。特に残暑の厳しい日の昼下がり(注4)、慣れぬ東京のしかも分かりにくい世田谷(注5)を、地図を片手に迷い迷い来てくれたらしく、二人ともシャツに汗がしみ出していました。
「本当にご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした」と、二人はまるで自分たちが 悪いことでもしたかのように、④深々と頭を下げてから仕事にとりかかりました。途中、若いほうの人が、故障の原因だった部品を手に細かく説明してくれました。そして、他の個所も調べて、部品を交換してくれました。
「私たち⑤今度のことで急に東京に呼ばれましたが、普段は工場で洗濯機作ってるんです。こんなにきれいに永いこと使ってもらってうれしいです。これでまた新品同様になりまし たから、⑥使ってやって下さい
二人は洗濯機の外側を撫でるように布で拭きながらそう言って、帰っていきました。
以来、洗濯機は前にもまして実に快調(注6)です。大事に使おうと思っています。
(山内美郷『昼下がりのひとりごと』による)
(注1)火の気:火のある気配
(注2)脱水:水分を取り除くこと。洗濯機にこの機能がついている。 (注3)お国なまり:出身地の言葉の特徴 (注4)昼下がり:午後1時、午後2時のような午後の早い時間
(注5)世田谷:東京の中の地域名の一つ
(注6)快調:調子がいいようす
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